探偵ロマンスを見て本質を知る

二人の探偵と犬が立っているビンテージコラージュ 徒然思うこと

NHK総合で、若き日の江戸川乱歩を主人公にした、探偵ロマンスというドラマを見た。

はじめは、興味本位であったが鑑賞するとどのセリフもかっこよく胸を打つものであった。
特に感慨深くなった場面と感想を紹介したいと思う。

※こちらのブログには、ネタバレを含みますので、未視聴でネタバレをしりたくない方は、ここでお引き取りください。

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探偵ロマンスとは

新進気鋭の脚本家・坪田文が書き下ろすオリジナルドラマ。

1923年に作家デビューを果たした江戸川乱歩。それから100年という節目にお届けする“知られざる江戸川乱歩誕生秘話” 連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」制作チームがNHK大阪放送局よりお送りするロマンスあり、笑いあり、涙あり、魂の叫びあり、アクションあり・・・ 今を生きる人々の心に響く珠玉のエンターテイメント活劇。(公式ページより引用)

探偵ロマンスの公式ページ

帝都東京の時代の世界観

時代は、帝都東京。大正時代のモダンでレトロな雰囲気満載の街並み。
もう、ど好みである。

道はまだ舗装もされていなくて砂埃が舞い、レトロな看板、ベランダに佇む老婆、ポストの側には、薄汚れた子供が風車を持って座っている、ラッパを吹いて太鼓を叩き、鐘を鳴らしてオペラ館の客寄せをしているチンドン屋。壁には落書きがある。落書きを一つ消せば、5銭もらえる。

そんなお洒落で、モダンな世界で、殺人事件が起きる。

わからないから知りたい

若き江戸川乱歩こと「平井太郎」は、呟く。「分からないから知りたい。」

知りたいのは、事件の真相もそうだが、事件を通して太郎は、さまざまなことに触れる。
事件の犯人や真相を追っていくうちに、関わってくる人間の気持ちや時には闇を知る。

毒を喰らう覚悟があるなら、ついてきな」と名探偵の白井三郎から突き付けられる太郎。

様々なことを知ることから人の気持ちを掴む…。相手の望んでいる事を見つめる。
そこから人の悩みや闇が見えてくる。それがなのだと思う。
事件の真実も時には残酷で、知りたくなかったということもある。
太郎は、人の気持ちに触れるのが怖いと言っていたが、まさにそういうことだろう。

毒というのは、言い過ぎな気もするが、人の闇に触れると受ける方も時に苦い思いをする。
一緒に暗い気持ちになり、引き込まれてメンタルをやられることがある。

人の気持ちに触れるのが怖い…結局、人の気持ちをいろいろと考えるのが面倒臭かったり、怖かったりするんだろう。誠実さを忘れてしまった己を見つめるのが1番怖い。そもそも、そんなものは始めからないのか?心に寄り添う気がないならやめたほうがいい。
毒を喰らうのには、それなりに覚悟が要る。興味本位で、生半可な気持ちで触れると大変なことになる。

人の弱みに漬け込んでくるイルべガン

劇中に出てくるイルベガンとは、シベリアのテュルク系民族の神話に登場する多頭の人食い怪物である。シベリアタタール人の神話にも登場する。いくつかの伝承では、イルベガンは羽を生やした竜または蛇のような生物である。

人の心の弱みに漬け込んで、その心を食らう住良木は、まさにイルベガンであると思う。
「私は、あなたの物語が聞きたい」と悩んでいたり、弱っている人にソッと近づき「優しい人は、悲しい人です、あなたは美しい…」と耳元で甘く囁くイルベガン住良木。

このようにして、人の弱みに漬け込んで己の欲を満たそうとする輩は、現代にもたくさんいると思う。


病んでるときに、近付いて来る人間には、気を付けた方がいい…。
あなたを本当に心配している人間と、弱みに漬け込んで利用しようやろうと企む輩とニ種類の人間がやってくるから。そうやって初之助もお百も毒牙にかかってしまった。

お百も、初之助も戻れなかった。自分を尊重してくれるフリをしている奴を見分けることができなかった…。そして、初之助は、明智の名前を明かしてしまい…切なすぎる最期だった。

全てを知って又、1話から見返していると、こんな時から、初之助やら久代を狙っていたのか…。と、ゾゥッとしてしまう。この、人の心を喰らうイルベガンめ!

己の言葉や振る舞いが、結局己を苦しめている。

新聞屋の梅澤や住良木の言動を見詰めて突き詰めていくと、また見えてくるものがある。

三郎が悪態をついて絡んでくる梅澤に【アンタの言葉が、いつかあんたを苦しめなきゃいいがな。】と宣う場面がある。センセーショナルな見出しや言葉で、読者を惹きつけて誰かを落としめるようなことを書く。一時は、みんなその刺激的な文面に飛びつくいてくるのだろうが、すぐに飽きるし思い返せばもやもやと嫌な気持ちが胸に広がってこないだろうか。

現代でも炎上商法というものがあるが、あれもゴシップ記事のようなものである。
そうでもしないと人が振り向かないと思っている。毒を撒き散らしてみんなに嫌われてしまう。
綺麗事だけじゃ飯は食えないとだけと目先のことだけを追いかけていって、己の首を絞めていく。
それが本当にお前のやりたかったことなのかと問いたくなる。

最終的に、梅澤は初之助の毒を喰らってそんな自分に見切りをつけたように思えた。

住良木もそうである。太郎に突きつけられた痛い台詞がある。

顔を隠してそうやって世界を斜めから見て笑っていたら悦に入ってたら傷つくことはない

これも現代のSNSがまさにそうであると思う。匿名で顔も名前も隠して好き勝手言っていれば傷つくことはない。そうして人を弄んで悦に入っているのであろう。

自分がないから他人の生きる様を借りないと生きられない。あんたには自分がない。悲しい人生だ。

生きる理由を与える…誰かに求められてないと生きてる気がしない。生きる甲斐がない?
一理あるとは思う。でも、生きてるだけでいいんだよって言葉の方が安心する。

しかし、人は誰かに認められたり、褒められたら嬉しいからそれを生き甲斐だと思ってしまう。
だから他人にもそれを求めてしまう。ただ生きてるだけでいいって言うことを受け入れるって、結構難しいと感じる。

【生まれて来た意味なんてねえよ。生きてるだけで充分だ】玉置浩二の田園にも【生きていくんだそれでいいんだ】と言う歌詞がある。
時代を紡いでいく中で、真理というのは、やはり同じところに落ち着くんだな…。
其処に、たどり着くまでが大変なんだ。

人間の本質とは

何を美しいと思うかで、その人間の様が現れると言うのなら、何に怒りを感じるかにその人の本質があると僕は思います。

この太郎の台詞を聞いて、胸を打ち抜かれた気分になった。
何に怒りを感じるか。些細なことで喚き散らす奴は、器が小さいと思われる。
誰かのために、怒れる人は、心優しい人だということが現れる。

それが、その人の本質なのである。怒りとは、自分の器の核に触れるものなのだと私も思う。

自分の物語は、わかってもらいたくてたまらないくせに、他者の物語を分かろうとしない。
ここまで言われて、住良木は、カッとなって太郎に銃を向ける。住良木の身勝手さが露呈している場面である。ここでも私は、他人の言い分は、全く聞かずに身勝手な要求は通そうとする現代のネトウヨや政治家たちを彷彿とさせるなと感じた。

本質を知る人に憧れる

このように、ドラマを通して成長した平井太郎や人生の本質を知り尽くしているような白井三郎のようになりたいと思った。

久代のように、姉さんのようになりたい…と願う。

そんな久代に、流子は言う「あの人は、もう居る。でも世界中どこを探してもあなたと同じ人は、居ない。だから私も、あなたも自分自身にしかなれないのである。
彼女自身も指摘していたが、これは当たり前のことである。
でも、それが本当は希少である事、大切にすべきこと…。この【当たり前】を誰が言ってくれるのか。

現代にリンクしまくっていた探偵ロマンス

全体を通してみると、探偵ロマンスは、現代にも通じていることがたくさんあった。

先述した事柄もそうであるが、今回あの時代にも今のように苦しんでいる人がいたんだなと胸が痛んだ場面もあった。

お百が太郎に、そんな世界は、いつ来るの…?と尋ねた。


太郎は、何も答えられなかった。

お百の苦しみが切ない。こちらも苦しくなる。令和の今も、そんな世界は、まだ来てないね。
何故なかなか来ないと思う?差別や偏見のしがらみというものは、根深いものがあるからだ。

私は、私と共に闘ってくれる人とその世界を作りたいと思う。独りじゃできないし、独りじゃないと思う。それについては、こちらの記事にも詳しく書いておりますので、よろしければご覧ください。

「トランス女性の女性スペースについての意見書」https://aosisasahara.com/space-use-issues-for-women/…

この作品を通して、私は人生において何が大事なのか繰り返し繰り返し考えることになった。
これからもずっとその答えを探していくのだろうと思った。

とてもいい作品です。どうもありがとう。と心から言いたい作品であった。

探偵ロマンスのサウンドトラックもとても良かったので、ご紹介致します。

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