写真家・宮崎学の「死」を読んで

本の感想

動物の写真などで、有名な写真家・宮崎学さんのドキュメンタリーを見て、彼に関心を持ち始めた。
カメラを森などに仕掛けて2時間おきに、自動でシャッターを押すカメラや、被写体のまわりにやってくる動物の体温を感知してシャッターを切れるロボットカメラを用いるなどの独特な方法で、動物たちの写真を撮影する姿に感服した。

それだけではなく、環境問題や時には死などに鋭く切り込む作風ゆえに、動物の視点から社会を斬る「自然界の報道写真家」と呼ばれている。

今回は、ずっと気になっていた宮崎さんの「死」についての写真集の感想などを紹介したい。

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「死」宮崎学の動物の死についての写真集

此方の写真集は、動物が死んでから朽ち果てていくまでの過程を鮮明に詳細に写したものを紹介する写真集である。

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動物写真は可愛らしい猫や犬、身近な動物でなくても生きている躍動感溢れる姿を写すのが一般的である。なぜ、わざわざ「死」などというネガティブな題材を選んだのか。

一つ一つ、紐解いていこう。

※動物の死後の過程などを詳細に書いているので、苦手な方はこちらから先を読むのは、お控えください。ご拝読は、自己責任でお願いいたします。

死を無駄にしないものたち

まず、動物が死んで最初に、その死に気付くのは、昆虫たちである。宮崎さんによると、彼らは生命の死を感知して死臭を嗅ぎつけてやってくるらしい。しかも腐敗の程度によって近づいてくる昆虫の種類も違うというのだ。

交通事故に遭ったタヌキが死んだばかりの遺体には、キイロスズメバチが寄ってきてタヌキの肉片をちぎって巣へ持ち帰って幼虫に与える。

日差しにさらされて腐敗し、肉の鮮度が落ちてくるとハチは来なくなって、代わりに今度は、ハエがそれを好んで寄ってくる。ハチとハエは、微妙な死臭を嗅ぎ分けて察知し、エサを求めているのだろうという宮崎さんの見解であった。

私は、昆虫たちが死臭と言う臭いを感知しているかはわからないが、なんらかのサインを受け取って遺体に近寄ってくるのは確かだと思う。

腐敗していなければ、ハチが食し、腐敗すればハエが捕食する。
それだけではなく、雪道ならば腐敗もあまり進まないので、他の動物たちが寄ってきて捕食をする。その場に居ると様々の動物などに邪魔されたりするので、骨ごと運んでいって巣でゆっくりと食べる。なので、骨は現場には残らなくなる。持ち去られた骨は、遺体から離れたところまで分散されてゆき、野ネズミなどの小動物たちのカルシウム源になっていく。
何とも自然の仕組みとはうまくできているものだと感服してしまう。

死を活かすとは

宮崎さんが、死という誰もが避けたくなるようなことにカメラを向けた理由は、ご本人の著書から引用してご紹介したいと思う。

自然を語るのに、この汚くて臭い世界のあることをどうしても避けては通れなかったからである。
死を単なる物質的な終息として教えるのではなく、新たな生命に引き継がれて連続するものであるということを自然から学んだ。

私達人間もいつかは死んで自然に還ってゆく。自然界の一員として、自然に滑らかに還って行ける道さがしを動物たちの死によって探りたかった。生命とは何か、人間とは何か、そして自然とは何なのかということを、動物の死体を通して知りたかった。

とあった。

私も、彼らがどう死んで自然に帰っていくのかに関心があった。それをこの目で確かめたかった。
森や雪原で倒れ、絶命した後にその死を嗅ぎつけた昆虫や動物がその遺体に寄り付いてくる。
そして、卵を産み付けられたり、食われたりして体は少しずつ欠損していくわけだが…
ここまで書くととても残酷で、目を背けたくなるような話であるが、怖がらずにきちんと真っ直ぐ見つめていると見えてくるものがある。そうすると、不思議と怖いと思って居いたものは怖く無くなってくる。

その意義を深く考えると、関心が湧いてきてそれを知りたくなる。わからないから知りたい。

死した動物に寄生した虫や彼らを食ってしまう動物は、生きるためにそうするのである。

頭ではわかっているが、グロテスクで残酷に見えるので、なかなか想像しにくいものだと思う。
しかし、先述したが、動物の遺体の肉に卵を産み、虫の幼虫や他の動物もその肉を喰らい、そして自らの糧とする。そうやって生き物は生きて命を繋いでいくのだと改めて認識させられる作品なのだ。
その朽ちてゆく過程を、時系列でじっくりゆっくりと見つめていくと、様々な虫や動物が遺体に触れていってどう次へ生かしていくのか。彼らの死に様を通してしっかりとみつめると、それがはっきりと見えてくる。


私達人間というのは、己の欲を満たすために、養殖をやってみたり、品種改良をやってみたりする。自然から見ればとても不自然なことをしているが、この星で生きている以上は、自然の一部なのである。それを改めて実感できるのが、この作品なのではないかと思う。

日本どころかたぶん世界を見渡しても、このように動物の死とじっくりと向き合った写真集は、希少であると思うので、ぜひお勧めしたい一冊である。

知ることは、時に毒を食らってしまうような苦味がある。でも、それを知ることで見えてくる世界がある。それによって人生は、より深く意義のあるものになって行くと私は思う。

参考文献と引用 宮崎学著 「死」 平凡社

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