100万回言えばよかったをみて死や罪について考える

遺された恋人を慰める人 映画ドラマ関連

金曜ドラマ、100万回言えばよかったをみた。
今回のドラマ視聴で、意外にも死や人の罪について深く考えることができたので、ここに感想とともに記そうと思う。

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あらすじ

幼馴染でお互いを運命の相手だと確信していた相馬悠依(井上真央)鳥野直木(佐藤健)

悠依にプロポーズしようと決めた矢先、直木は不可解な事件に巻き込まれてしまう。

最愛の人が突然姿を消した悲しみに暮れながらも直木を懸命に探す中、悠依は刑事・魚住譲(松山ケンイチ)と出会う。

後日、譲は街中で直木の姿を見つけて話しかけるが、なんと直木は幽霊の姿となっていたのだった…。

直木は、自身の存在を唯一認識できる譲に、自分の言葉を悠依に伝えてほしいと頼むが…。

こちらの公式ホームページより引用。

最初のドラマへの印象

恐らく亡くなってしまった恋人と恋人が巻き込まれてしまった事件を解決していくという恋愛とサスペンスを両立させているドラマということで、とても関心を惹かれた。
刑事の魚住だけが、幽霊である直木と話すことができて、悠依に通訳をするという形も面白かった。
多くの人が、映画の「ゴースト」を彷彿とさせていたが、このドラマで起きる事件や様々な事情も複雑で、単なる恋愛とサスペンスだけではなく、なかなか考えされられる場面も多かったと思う。

※ここからは、ネタバレを含みますので、未視聴でネタバレをされたくないという方は、ここでお引き取りください

死への向き合い方

大切な恋人・直木を突然失った悠依。
死とは、どんな死でも、大切な人が目の前からいなくなることには、変わりないので、とても理不尽なものだが、悠依は交通事故でも、病気でもなく殺人によって大切な恋人を失ってしまったのだから、それこそ理不尽極まりないことであると思う。


最初は、事件の真相もわからないし、直木が行方不明のまま、直木の幽霊のような存在を知ったので、彼が死んでいるのか生きているのかもわからないまま過ごし、直木が死んだとわかってもそばにいてくれているので、悠依の直木への執着が強くなっていく。

育ての親である勝さん達が、亡くなったときに読んだ「100万回生きたねこ」を読んで、私なら自分が死んだならいつまでも悲しまないで、次に進んでほしいと言っていたのに、いざ自分が置いていかれてしまう立場になると、真逆のことをしてしまう。

人とは、いざ、その立場にならなければ分からないのである。
通常ならば、死んでしまったら2度と会うことはできない。それでも自分の人生は続いていく。
残酷だが、いつまでも塞ぎ込んで泣いていることはできない。忘れることはできないかもしれない。
忘れなくてもいいと思う。楽しい思い出をくれた故人に感謝して思い出を大切にしながら生きてゆくしかないと思っている。人が本当に死ぬときは、誰にも思い出されなくなったときだと思うから。

救われない少年・少女達の闇

このドラマでは、子ども食堂に通う子どもや、性的搾取をされる少女などが出てくる。
主人公の直木と悠依も恵まれない子どもであった。直木殺害事件も大きな闇の世界と繋がっていたわけだが、私はこの事件の裏にあるものに、とても深い闇を感じた。

直木を殺害したのは、池澤英介であるが自分の過去の罪を知られたくないがために、直木を殺して口封じをしてしまったことは、あまりにも身勝手なことであるが、英介の主張の通り時効が来ても例え刑期を終えたとしても、被害者も世間も許してくれない可能性は高い。

被害者は許さなくてもいいと思うが、世間は刑期を終えようが許さないし、どんなに心を入れ替えてもまたやるんじゃないかという疑いの目を向けるものである。私も正直そうならないとは言い切れない。

英介は、過去に女の子達の売春の片棒を担いでいたのに、今更子供の支援なんて何言ってんだと世間に言われると言っていた。

実際に、SNSでも「おまいう」(お前が言うな)という言葉があるが、英介の過去が知られてしまったら、まさにそう言う言葉を集中砲火の如く浴びせられるだろうと思う。

でも、悠依のいう通り、何も殺さなくてもいいし、魚住の言う通りそういう理由があったとしても二人の未来を奪う権利はない。

しかしながら、英介を擁護するわけではないが…

彼も闇の世界で生きてきた子どもだったんだろうなと思う。被害者は彼を許さなくていいと思う。
でも、子供を支援する事で、償ってたんじゃないだろうか…。
武藤千代さえ居なきゃこんなことにはならなかったかもと思うとやり切れない。
英介に対しては、どう思えばいいのか正直整理は付かない。
性的搾取の片棒を担いで、直木を殺した事実は、ないことには出来ない。多分、許すことはできない。一生それを背負って悔いて生きてほしいとは思う…。少なくとも忘れちゃいけないと思う。

英介の罪は重いが、彼も恵まれない環境で、勝さんに出会えて立ち直れた。でも武藤千代のせいで、また地獄に引き戻された。勝さんの幻影を見てる時点で、罪の意識はあり、非道には成り切れない臆病な人。

英介には、子供達の支援のために注いで欲しかった。今でも助けを必要としている子供達は、現実にも山ほどいる。だから英介のような人間は、この世に必要不可欠なのである。
でも過去を知られたら、誰も支援してくれとは言わないかもしれない。繰り返すが、刑期を終えても、時効が来ても世間は許してくれない。ここの闇は、かなり深いと思う。

でも、直木なら英介が世間から批判されても助けてくれたかもしれない。なぜなら彼に刺されても尚、「あなたはいい人だ。俺は知ってる」と言ったからだ。
素直に直木のいうことを聞いて欲しかった。批判にも負けずに強く生きて欲しかった。直木や悠依となら、難しくても、しんどくても、もしかしたら、それが実現できたかもしれないと思う。


勝さんによって救われたはずの少年は、大人になって闇に落ちてしまったと言う悲しい結果になってしまったと思う。

悠依が莉桜へ送った言葉

莉桜は、自分だけが生き残ったことに罪悪感を感じていた。
自分が直木と関わってしまったから彼は殺されてしまい、涼香も田中も死んでしまった。
でも、それは武藤千代のせいであり、彼女のせいではない。それは、莉桜も頭ではわかっているのだろうが、どうしても罪の意識は拭えない。

それを聞いた悠依は、「直木が前に言ってた。無事でいることは悪いことじゃない。ずっと言いたかった。私を助けてくれてありがとう…」

確かそうだ。そもそも莉桜は、武藤千代に搾取されていた方だし、同じような境遇の少女を悠依に託して助けようとしたり、子供の頃も悠依だけは、こちらの世界(反社会的な世界)には来させないようにしていた。涼香に対しても、500万を渡してでも、もう武藤に関わらないでほしいと懇願していた。

ここまでできる人が、どうして罪の意識に苛まれないといけないのか。
それは、莉桜が心優しい人だからだと思う。だから自責の念に駆られてしまう。過去にも、災害や戦争で家族や友人をやむを得ず捨てて、自分だけが逃げた、自分だけが生き残ったことを自ら責めてしまう人がいた。

気持ちは痛いほどわかる。心優しい人ほど、そのことで自分の心を何度も痛めつけてしまう。
そんな中での、被害者の一人である悠依の言葉は大きかったように思う。

彼女もまた、莉桜に救われた一人なのだから。

直木の両親について

直木の両親は、直木の弟、拓海の病気を受け止める器がなかった。母親もいつしか、直木を拓海を助ける道具としかみなさず、父親も暴力を振るうようになってしまう。私は、彼らはもう直木の親ではないと思ってしまった。そんな中で、彼を愛していると言った悠依に救われたものだ。

しかし、親も人間なのである…。病気は、時には、人を狂わせもする。人の親になると、どうしても愚かしくなることもある。実際に、その立場にならなければわからないものである。私は、実際に人の親ではなく、逆立ちしても彼らの苦悩はわからない。同じ状況になっても彼らのようには絶対にならないとは言い切れないし、言い切ってしまう人ほど危険だと思う。

しかし、直木が愛した、直木を愛してくれた悠依に導かれ、彼の作った料理を食べて、拓海が健康になって、拓海も直木もそばから居なくなって改めてやはり彼らを大切な子だと思ったのか。
ご都合主義で、自分勝手な親だとも言えるが、親というのは、人というのはそれほど立派でもないのだと思う。

いつか、この両親も拓海とわかり合える日が来るといいと思う。まだ、彼は生きているのだから。
直木が繋いてくれた命なのだから慈しんで大切にしてほしいと切に願う。

俳優陣の演技力

最後に、俳優陣の演技力に触れたいと思う。

佐藤健、井上真央、松山ケンイチという大河ドラマ主演経験もある粗相たるメンバーなので演技力は確かなものなのだが、その中でも印象的だった場面をいくつか紹介したい。

直木が、刺されて絶命するときに、身体がビクビクしてて恐かった。
この世の思い残しを思い返しながら、目は虚ろになり、咳き込んで吐き戻しそうになった血液が歯に付いている。だんだんと意識が遠退いていく…。人が死んでゆく様を見せる。流石の佐藤健氏だった。

英介が練炭自殺見せかけを仕込んでた時に現れた勝さんが怖すぎた。
ニヤリと笑って突然現れるその姿に、ゾッとしてしまった。
春風亭昇太さんって、空恐ろしい雰囲気も出せる。 #おんな城主直虎 の今川義元もいつもの彼の雰囲気とはかけ離れていたものだった。

直木が魚住に乗り移る場面。
直木が体内に入ってきたら、瞬時に切り替えて直木を演じる松山ケンイチもすごいが、中身が直木なので、時々魚住が直木の姿になり、目の前の人物が変わるのに、同じように一人の人物と向き合っている状態を演じ続けられる井上真央。
佐藤健も魚住(松山ケンイチ)が途中まで、演じた続きをキチッと演じられる凄みがあった。

撮影も細かく切り替えていて大変な作業であったと思われる。

現代では、セットやロケの都合や効率的に撮影するために、ドラマも映画も話の順番通りに収録されるわけではないのだが、この作品は特に切り替えが細かかったのではないかと推測する。

この素晴らしいドラマを演じてくれた演者の皆様、制作スタッフの皆様に敬意を示して結びとさせていただきます。読者の皆様方も、ここまで長々とお付き合いいただき、誠にありがとうございました!

こちらの作品は、とてもよかったのでソフトもご紹介しておきます。

DVD &Blu-ray

オリジナルサウンドトラック


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