「私が、大して役に立つとは思えないんだけど」
美栄子は、大きな溜息をつきながら、神木を上目遣いでみた。
「でも、クークルレビューは、僕が何とかしたんですから職務は全うしてもらいますよ!」
神木が、ジロリと美栄子を睨んだ。
「ともかく!霊能者とかじゃなくても!一緒に調査してお金の事は、探ってもらいます」
と、神木はドヤ顔で一冊のノートをスッと鞄から取り出してそれをフリフリと振って見せた。
「ん、なドヤ顔で言われても」と、美栄子は顔を顰めつつ、自分の店に入っていく神木の後を追った。
神田の店。
いつもの占いに使っている円卓の前の椅子にドカっと座りながら、神木はノートを広げた。
「僕の夢に出てくる母の言い分はこうです。」
①下界に降りて生きている人の夢の中に出てくるには、沢山のお金が要る。
②そのお金を工面するのに、みんな苦労している。
③そのお金が満額まで貯まったら、下界に降りて現世の人に夢や起きている時にも会える。
「てゆーかさ。あの世でもお金が要るわけ?どんな地獄よ。地獄の沙汰も金次第ってやつ?」
「その金が何なのかを突き止めたいんですよ!」
「んーーだからあの世にも、あの世の貨幣があるんじゃないの?」
「そういうテキトーな感じじゃなくて、具体的に知りたいんですよ!」
正直、メンドくせーと思ったけど、お店のクークルレビューを管理して、返事を書いてもらってレビューを書いた主に訂正して貰えて、何とかしてくれた以上、報酬を先に貰っている様なもんなので、美栄子は、グウの音も出ない。
「んん…お金、三途の川を渡るのは、六文銭か。あっちに逝くのはそんなに掛からないってこと?」
「そういえば、こっちから上界に行くのには、容易いのかもしれませんね。」
「でも、天国には簡単には行けないんじゃない?」
「さっきの地獄の沙汰も金次第って、御沙汰にもお金がいるんですね。」
「でも、閻魔が金如きで買収されるわけ?てか、あの世で何を買うのよ??食べなくても過ごせるのにさ」
「ですよねえ。だから、金ってのは、僕らの世界と同じような貨幣価値のあるものじゃないと思うんですよ。」
その時だった。
チリーーーーーーん!
隣の部屋から鈴の音が鳴り響いた。
「あっ」美栄子が立ち上がっていそいそとエプロンをつけ始めた。
「?何です?」
「父が呼んでるの」
「え?お父さん?」
「ごめん、ちょっと待ってて」美栄子は、バタバタと奥の部屋へ消えた。
しばらくして、美栄子が戻ってきた。
「うちの父、ちょっと体が弱くてね。一人じゃ出来ないこともあるのよ。」
「え。お父さん、介護状態なんですか?」
「んーそこまでじゃないけどね」
「そうだったんですか、大変ですね…」
「ん。ま、でも慣れてきたかな。私が高校の頃からこうだから。」
「そんなに前から?!」
「失礼ね。私まだ25なんだけど?」
「いや、そういう意味じゃなくて学生さんの頃からお世話してるの大変だなと思って」
「そうねえ、だから部活とかにも出ないで家に居ることが多かったかな?占いもその頃に始めたの。在宅でもできる仕事だし、心理学も学んできたから何とかやってるわ」
美栄子は、ちょっとだけ目を伏せて
「でも、父は私が占い師やってるのあんまりよく思ってないけど」
「何でですか?」
「わかんないけど、あんまり口には出さないけど、仕事の話するといつも話を逸らされちゃうから」
「そうなんですね。ちょっと聞いていいですか?お母さんって…」
「母は、居ない!」
美栄子は、ピシャリ!と言い放った。
「あ、そうなんですね、すみません…」神木は、肩をすくめて謝った。
「なんで謝るの?」
「いや、触れちゃいけなかったかなって」
「そうじゃないけど、小さい頃から母はいなくて、父に聞いてもいつもあんまり教えてくれないから私もよくわかんないの」
「うちには、どうしてママが居ないの?」幼い頃の美栄子が父に尋ねた。
「んーママは、ねえ…」父のぼんやりとした横顔が見える。
その後、父が口を動かせて何か喋っているが、何を言ったのかよく思い出せない。
「美栄子さん?」
「え!?あ、何?」
「大…大丈夫ですか?」気がついたら、神木が美栄子の顔を覗き込んでいた。
「ごめん、ぼーっとしてた!何だっけ????」美栄子は、慌てて取り繕った。
「…今日は、お疲れのようですし、また改めてお伺いします」
「ん、わかった。じゃあ、今度は次の日曜日にね。」
「はい、失礼します。」
神木は、少々複雑な気分で、美栄子の店のドアを閉めて店を後にした。
生命の沙汰 続
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