「徳かあ…」神木が、腕組みをしながら考え込んだ。
「ん?」美栄子は、頬杖をつきながら神木をチラッと見た。
「いやあ、僕そんなにいいことしてないなあって思って。」神木が伸びをしながら答えた。
「そうなの?」
「んん、母にもそんなに孝行な息子じゃなかったですしね、だから僕に会いに来てんのかな?」
神木が苦笑いしながら言った。
「親孝行じゃなかったなとか、親孝行しなきゃなとか思ってる時点で、親孝行だと思うけどね。」
美栄子は、タロットカードをトントンと揃えて箱に丁寧にしまいながらそう言った。
「ええ?そういうもんですかね?思うだけで?」
「そうよ。親孝行じゃない人ってのは、そんなことすら考えないもんよ・・」
「そうですかねえ。そう言ってくれると少しは、ホッとしますけど、母は俺のところに来て一体何を伝えたいんだろうって思います。」
「…お母様は、お金を通して神木くんに何か伝えたいと思ってるのかな」
「そうかもしれません。なんとなく、そんな気がするから気になるのかもしれません」
「そか。一般的に、亡くなった人が夢に出てきたり夢枕に立ったりする時は、確かに何か伝えたいことがあるからなのよね。もしくは、心配してるとか。本人が不安に思ったり悩んでいることがあっても親とか身近な存在が出てくる時もあるけどね。心理的に。」
美栄子は、顎にグリグリと鉛筆を押し当てながら言った。
「伝えたいこと…なんだろう?悩んでることは、確かにいっぱいありますけどね」
「そうなの?お姉さんに話してみる?」美栄子は、頬杖をつきながら上目遣いで神木を見た。
「あ、これ別料金ですか?」
「そりゃあね!なんてね。愚痴くらいなら聞くわよ」
「愚痴っていうか…俺の家庭もちょっと複雑で。俺の父親が酷いモラハラ野郎で。
母が重い病気になった時も興味っていうか関心持たなくてなんなら母を怒鳴りつけて、もっと家事しろとか俺の世話もちゃんとしろって言ってたんですよ。」
「ええ?!」美栄子は驚愕して目を見開いた。
「で、俺はというとそんな親父が怖くて母のことを全く庇えなかったんです。まだその時は高校生だったし。情けないですけど」
「そんなの…まだ子供なんだから当然じゃないの?」美栄子が悲しそうな目で言った。
「でも、美栄子さんも高校生の頃から家のことキッチリやってたわけだし。やっぱりいい息子じゃなかったですね。」神木が寂しそうにポツリと呟いた。
「あ、ああ、でもうちの父は、モラハラ…とかじゃないし、世話もやりやすかったのよ!」
美栄子は、慌てて取り繕うように言った。
「はあ…」神木は、生返事で答えた。
「ん、もう!いちいち落ち込まないでよ!今は、お金がなんなのかってことを考えるんでしょ!徳だとしたら、あの世でも善行を行わないとダメってことかしら?」
美栄子が手元の紙に、鉛筆で「あの世のお金=徳、善行?」と書き込んだ。
「すみません…そうですね。徳だとしたらそうなのかもしれません。あの世に行っても良いことしてそれで徳が貯まったら下界に降りられるんですかね。それを、こちらから母に聞いてみましょうか」
「だから、それをズバリ聞いても多分答えてくれないわよ。禁じられてるんだとしたら」
「あ、そっか。うーん…なんかこう決定的な裏取りをしたいですねえ。」
「そうねえ。あ、覚えている人に聞いてみるのはどうかしらね。」
「覚えている人?何をです?」
「だから、亡くなってから、生まれ変わるまでの間のことを覚えている人よ!」
「ええ?それ、見つけるのめちゃ難しくないですか?」
「そうだけど、それしかないじゃない?なんとか探してみるわ!お客さんの中にもいるかもしれないし!」
果たして、死んでいる期間の記憶がある人に巡り会えるのだろうか?
それともそれは…
生命の沙汰(6)に続く
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