生命の沙汰(10)

連載小説

ピルるるるるーーーーーーー!♪

美栄子のスマホが鳴った。神木からである。美栄子がスマホの画面を確認すると

「美栄子さん!あの後、僕たち意気投合してすっかり仲良くなっちゃって!それから…!」と
浮かれ上がった神木の惚気メッセージがツラツラと長文で書かれていた。

はああああああああああああああ」美栄子は、大きなため息をついて項垂れた。

二人には、特段悪影響がなさそうで、ホッとした反面、神木が調子に乗って浮かれ過ぎていることに呆れた。

『あのね、神木くん、仲がいいのは結構だけど、英子さんが前世からの願いを現世でも叶えたいと思っているかどうかもまだ分からないんだから、あまり浮かれて距離感間違えたらそれこそ縁が切れちゃうわよ?』

と返信した。

数分後、

『そうですね!そうなったら、僕としても一大事なので、以後、気をつけます!!』

とだけ返ってきた。

本当にわかっているのだろうか?と若干不安にもなったが、二人を引き合わせられたことで美栄子は安堵した。前世での強い思いを知っていて黙っていることにも強い罪悪感があったからだ。


でも、本当に伝えてしまってよかったんだろうか?と不安もよぎったが、なんだかんだで二人は、うまくいきそうだし、大丈夫だよね…と言い聞かせて美栄子は、今日の仕事に取り掛かった。

積んでいた占いの鑑定をある程度こなして、夕方に差し掛かった頃だった。

またスマホが鳴った。神木からである。

「もしもし?」美栄子は、直ぐに電話に出た。

「美栄子さん?英子さん、そっちに行ってないですか?」
「え?今日は来てないけど?どうしたの?」
「今日、一緒に映画に行く予定だったんですけど、何時間経っても待ち合わせに来なくて。もしかして、何かあったんじゃないかと思って」
「そうなの?連絡つかないの?」
「はい。何度電話しても出なくて。メッセージも既読にならないし、SNSも更新されてないしで、家に行って呼び鈴押しても出ないし!」
「ええっ?私仕事が一段落したから、私も探してみようか?」
「お願いできますか?今、K公園にいます。落ち合ってから一緒に探してくれませんか?」
「わかった!」

美栄子は、急いで上着を着ながら父に声をかけてからスマホを掴み、家を出た。

もしかして、何かに巻き込まれたとか…!?

美栄子は、胸がざわついた。

美栄子がK公園に着くと、神木が半泣き顔で、振り返って美栄子を見た。

「はあ、はあっ!神木くん」美栄子は、息を切らしながら項垂れた。

「美栄子さん、どうしよう」神木が涙声で呟いた。
「泣いてどうすんのよ!とにかく心当たりを探すわよ!」美栄子は、勢いよく顔を上げて神木の肩をバシッと叩いて言った。

神木から聞いた英子が行きそうなアンティークな雑貨屋、行きつけのカフェ、待ち合わせの映画館など心当たりは探し尽くしたが、英子は見つからなかった。

「一体、どこに行っちゃったのよ!」美栄子は、ぐったりとして公園のベンチにもたれかかってため息をついた。

「美栄子さん、すみません。念の為、捜索願いを出してみます」神木が、ぽつりと呟いた。

捜索願い?

美栄子は、自分の胸の奥からザワッとしたものを感じた。

「母さんの捜索願いは一応出したんだけど…」「結局、みつからなくて今は死亡扱いになってる」

父の言葉が蘇った。

やめてよ!!

美栄子は、思わず叫んでいた。

「み、美栄子さん?」神木が怯えて美恵子を見て後退りした。

「あ…!ご、ごめんなさい。つい、」と美栄子は頭によぎったことが口を吐きそうだったが、言葉を飲み込んだ。

「今日見つからなかったって言っても、捜索願いまで出すのは、ちょっと大袈裟じゃないかな?もしかしたら、明日には連絡あるかもしれないし、ね。」と美栄子は取り繕うように言った。

でも、僕にとっては大事な人なんです

神木は、そう美栄子に、静かに冷たく言い放った。

美栄子は、神木の顔を見て驚愕した。
さっきまでの泣き顔の神木は、もう其所には居なかった。
悲しみと怒りが混じった、青白いような目をして美栄子を見つめていた。

「あ、そ、そうよね。ご、ごめんなさい」美栄子は、神木の眼力に圧倒されてベンチの背を掴み、すっかり萎縮してしまった。

「美栄子さん、なんか誤解してません?俺、英子さんのこと遊びじゃないんですよ。」
「そ、それはわかってる!今朝も、ちょっと言い過ぎたよ。でも、誤解してるのは神木くんの方だよ!」

「何がです?」

「それは…!」英子と母の事と重ねて見てしまったとは言いにくかった。
どう、上手く説明しようかと、考えを巡らせていると

急に背中が、氷水を流されたように、ゾクッと冷えた。

「!!!!????」美栄子は、自らの腕を抱えてしゃがみ込んだ。

「美栄子さん?」神木が美恵子の異変に気づいた。

な、何これ???感じた冷気は、背中の中心からジワジワっと背中全体に広がっていき、着ていた服が、じっとりと濡れていくように感じた。

その時だった。じゃりっと土を踏んで擦る音がした。

二人が振り返ると、其所には、英子が立っていた。

英子さん!!」神木が驚いて英子に駆け寄ろうとしたが、

びゅうううううううううううううう!

大きな風と共に、英子の周りに、白い煙のようなものがまとわりつき、あっという間に彼女を包み込んでしまった。

「う、うわっ!?」神木は、目を瞑って腕で顔を覆った。


神木くん!!!!!」美栄子は、片目を瞑って踞ったまま叫んだ。

その瞬間、目の前が真っ暗になった。

んふふ。

真っ暗な中で、女性の不気味な声が響いた。

さ、寒い…!!

美栄子は、全身が冷気に包まれて、まるで、大型の業務用冷凍庫の中に踞っているようだった。
どんどん体温が奪われて行くのを感じた。

やっと見つけたあア〜〜〜!と、美栄子の耳元で、ねっとりとした不気味な女の声が響いた。
美栄子の首に、冷たくて異様に長い指が、ひやっと触れて絡んできた。

その指は、みっちりと美栄子の首に吸い付いてくるように密着してグイグイと締め付け始めた。

う、グウウッ!!!!」美栄子は、苦しくなって唸った。

く、苦しい。息が。でき、ない。

冷気を放っている指は、美栄子の首をどんどん締め上げていく。
美栄子は、自分の顔に血液が上がってきて顔が浮腫んでいくのを感じた。

もう、だ。めかも・美栄子は、意識が遠のいていきそうだった。

シャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

耳をつん裂くような大きな鳴き声がしたかと思うと、目の前がバーーーーーーーーーーっと明るくなった。

気がつくと、足元に、ゆらり。と金色に輝く鱗が見えた。

ふわっと、心地よい風が美栄子を包み、優しく頬を撫でた。

美栄子は、うつらうつらと意識が浮いて、そのまま目を閉じて気を失ってしまった。

生命の沙汰(11)に続く!!

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