生命の沙汰(1)

連載小説

近ね、よく会いに来てくれるんです。
彼は、ぽつりとそう言った。
「昨夜も、そうでした。でも、少しおかしなことを言ってるんですよ」
「おかしな事って?」
私は、円卓に置いてあった数珠を手に取って握り締めながら聞いた。
「ここに降りてくるには、お金が沢山要るんだって」
?お金?」私は、眉を顰めて聞いた。
はい、お金です。この後に及んで、まだお金が要るなんて本当におかしな話でしょう?」彼は、ため息をつきながらあきれるように呟いた。

「んーーーーそうねえ。あなたのお母様は、一体何を仰っているのかしら?」
「それが、僕にもわからないんです。そのお金が一体なんなのかそれを知りたいんですよ!」
彼は、勢いよく立ち上がって私に食い入るように迫ってきた。
私は、その勢いに思わずビクッとしつつ、ンンッと咳払いをした。
「あ…すみません、つい…」彼は、我に返ってストン。と椅子に腰を落とした。
「んん…あのね、神木さん、ご存知の通り私は一応占い師で、霊媒師ではないのよ?」と顎の下に手を組んで頬杖を付きながら諭すように言った。
「それは…そうですけど、あなたなら何でも視えるって言うから…」と神木は最後は、ボソボソと歯切れ悪く呟いた。
「んーーー…それって、誰に聞いたんですか?」と私は神木の顔を覗き込んだ。
「…レビュー」神木がボソボソと小声で何か呟いた。はっきり聞こえない。
え!?
「だから!クークルレビューで見たんですよ!」神木は、顔を顰めて叫んだ。
はあ!?
「ほら!これ!」と神木がスマホをこちらに突きつけて見せてきた。
スマホの画面には、ウチの店の名前とレビューの星が4.8個付いていて、その下に占い師、神田美栄子は幽霊でもなんでも視える霊媒師のような能力を持つ女性であるーと書かれていた。

「な、なに!これ?」
神木からスマホを奪って画面をしげしげと見つめた。
「こんなデタラメ勝手に書いてるやつ誰よ!?」と驚愕して叫ぶと
「今時は、クークルレビューもちゃんとチェックして管理しないとダメだと思いますけど?」と神木が吐き捨てるように宣った。
「はい?!」美栄子はスマホから目を離し、神木を睨んだ。
「神田さん、そういうの疎いでしょ?」神木が上目遣いで意地悪く言った。
「それは…!」と言葉に詰まった。
確かに、美栄子は、ネット通信やSNSなどはよくわかっていない。占いもいまだにタロットカードや水晶などアナログを駆使してやっている。
でも、いくらネットに疎い美栄子でも、これだけはわかる。
ネット上だと世界中の人が、見ているかもしれない。天下のクークルレビューに、こんな嘘を書かれているなんてヤバい、ヤバすぎる!早く何とかしないと…!と内心焦っていると

何とかしてあげましょうか?」と神木が見透かしているように言った。
「え?!」ドキッとして神木のスマホを素早くパッと円卓に置いた。
「僕が何とかしますよ。」神木が眼鏡をクイっと上げながら上目遣いでもう一度言った。
「そ、それなら助かる…」と言い終わらないうちに、
「その代わり!」
「な、何よ?」
「あれが何なのか?一緒に探って貰えます?」
「え?」
「だから、亡き母が言ってるお金って何なのか?って事です!」
部屋の風景が、ぐにゃりと歪んで見えた。

この作品は、連載小説です。更新は、不定期更新です。

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