神木に話すことは出来た。これからどうするか。
美栄子は悩んでいた。英子さんに、このことを話すべきか。
神木と二人で、あの世のお金が何を指すのか調べていたが、二人の過去と願いを知ってしまった以上、何もせずにいられるわけにもいかなかった。
しかし、前世で二人が望んでいたことだとはいえ、自分が深く介入していいものだろうか?
現世で二人が望まなければ、辛い過去を話す必要もないわけだし。
「美栄子さん」
神木が声をかけた。「ん?」美栄子は顔をあげて神木を見た。
「僕、英子さんと話してみたいです。」
「え?」美栄子は目を見開いた。
「話を聞いても、英子さんのことは何も思い出せませんけど、彼女と何か話せば思い出すかもしれないし。」神木は、少し照れ臭そうに美栄子とは目を合わさずに言った。
「そう、わかった。それとなく二人を引き合わせてみるね。」
「本当ですか!嬉しいです」神木が満面の笑みになった。
神木は、すでに英子さんに惹かれているのではないか。
前世であれだけ後悔していたのだから当然かもしれない。
美栄子は、自分が倒れた時に見えたことを話したいからと英子に連絡をとった。
英子は、快くその話を受けてくれることになった。神木にも関係していることだからと断りを入れて呼び出すことにした。
後日、英子と神木を呼んで、いよいよ過去のことを話すことにした。
「こんにちは。神木さんも初めまして。英子です。メッセージのやりとりでは、お世話になりました。」
英子が笑顔で頭を下げ、神木に挨拶をした。
神木は、英子を実際に見て目を見開いて釘付けになっていた。
「ンンっ!神木さん、英子さんです。」美栄子は咳払いをしながら神木に大声で言った。
神木は、ハッとしたような顔をして、慌てて立ち上がった。
「あ、神木です!その節はどうも…」というのが精一杯だった。
美栄子は、英子に夢中の神木に呆れながらも英子に向き直って話し始めた。
「メッセージでも伝えたけど、英子さんの過去の情景が見えたの。でも、それがとても酷いもので…それでも聞いてみたいですか?」
英子は、グッと固唾を飲んで頷いた。
美栄子は、英子に見えたことを素直に伝えることにした。
が、もちろんここで伝えたのは、散文的なことである。リアルな描写で伝えるのは、どうしても憚られると思った。
「、、、、、、、、。」
英子は、話を聞いて俯いていた。
「英子さん、大丈夫?」美栄子は、英子の顔を覗き込んで尋ねた。
英子が顔を上げると、頬を涙が伝っていた。
「これで、合点がいきました。」
英子は、二人から顔を逸らしながら腕で自らの身体を包み込みながら答えた。
「合点?」
「私、小さい頃からわけもなく体中の血がザワザワするような感覚に襲われることが度々あったんです。それに、なんだか血が怖くて…だから、前世では、てっきり誰かに殺されたのかと思ってました。でも、そうじゃなくて、病気だったんですね。」
「え?そうなの?」美栄子は目を見開いた。
「はい、永年この症状に苦しめられて、でも病院に行ってもどこも悪くなくて精神病院にも行ったんですけど、過去のトラウマとかもないし、医師も首を傾げてしまって。でも、原因が分かったような気がします。」英子は、涙を拭いながら言った。
「このことも、先生に相談しようかと思ってたんです。でも、解決できてよかった。」
英子は、泣きながら笑顔になった。
ひとしきり話終わってから、美栄子は英子の送りを神木に託して二人は、店を後にした。
この後、前世からの願いを叶えるかどうかは、二人次第だ。
と二人の背中を見ながら美栄子は思った。
しかし、結局お金が何を指すのか探るのは、失敗に終わってしまった。
でも結果的に二人が巡り会うことになったからよかったのかな。と自分に言い聞かせるようにした。
が、この二人を引き合わせることによって、また再び不幸の扉が開いてしまったことに、まだ美栄子は気づかないでいた。
生命の沙汰(10)へ続く!
先読みは、こちら!!!
1話は、こちら!!
コメント